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小さな頃からイレギュラーなアクシデントにみまわれやすい体質だった響は、そういった『変な人』に付き纏われた他に、あまり人が経験しないような出来事も数多く経験して来た。
例えば
【引越置き去り事件】
…これは両親が響の存在を忘れて引越先に移動してしまった事件である。
ちなみにちゃんとしっかり者の光が運搬途中で響がいないことに気がつき、ことなきを得たのだが。
【学校から消えちゃった事件】
…進級をきっかけに友達になった子に、
「一人で帰るのが怖い」
からと、響の家がある方向とは真逆の帰り道を付き合い、果てにその帰り変な人に後をつけられ、警察沙汰になってしまった。
例えで上げたこの二つ以外にも、数え上げたらキリがないほどのトラブルを巻き起こし、両親はおろか、兄の光にまで数々の心配をかけてきた響は、そういう経験を重ねることで、自分が巻き込まれそうなアクシデントを、事が大きくならないうちに回避する術を身につけていた。
――だから。
いつもなら、自動改札もほとんど意識せずに通るのだが、何となく気になった響は、駅の構内の隅で立ち止まると、学生証と一緒に入れているパスケースの定期を見て…
「やっぱり」
と、力無く呟いた。
見れば、定期の有効期限が昨日で切れていた。
(何となく、ヤな予感はしてたんだよな)
朝はバスで通学しているから気がつかなかったが、どうしてこう、持ち金に心許ない時に限ってこうなるかな…と思いながらカバンの中に入れていた財布の中身を確認すると、一円玉と十円玉が数枚入っているだけだった。
「イマドキの小学生だって、百円くらい財布に入ってるよなァ…」
(バスで帰るか~)
幸いなことに、バスの定期はまだ生きている。
しかしバスで帰るのは嫌だな、と、響は重いため息を吐き出した。
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