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うん、と良太の胸元に擦り寄りながら、響は照れくさそうに頷く。
「ちゃんと外泊許可貰ったから、心配ないんだけど…ダメ…?」
甘えた目つきで自分を見上げる響から少し離れた良太は、
「駄目も何も…」
と、口調では躊躇いを見せながらも、その目は身を縮める響を見て緩んでいた。
「もう、そのつもりなんだろ?」
そう言う良太に覗き込まれた響は、照れたような笑みを見せた。
しかし、その刹那。
「また光の所に行くって、親を騙したのか?」
笑ったままの良太の言葉を耳にした瞬間、響の笑みは凍り付き、瞬く間に表情を失う。
騙す、という言葉にも多少の引っ掛かりを感じた響だったが、もっと反応してしまった言葉がある。
―――ヒカル、という名前。
瞬きする間にがらりと雰囲気を冷たいものにして拒絶反応を見せる響に対して、良太はため息をこぼした。
「バレる嘘はよくないな」
そう言って良太はベットサイドのスマホに手を伸ばすと、全裸のままベットを出る。
「兄さんにっ…電話、するの?」
焦った様子で問い掛ける響の言葉に、良太は応えない。
自分でちゃんと電話するから、とは、そう言いながら電話をしなかったという前科があるせいで、言葉にできなかった。
以前ついた嘘の言い訳しか思いつかず、それでは良太を引き止められない響は、悔しさを紛らわせるように唇を噛む。
「…っ」
兄である光と口をきいてほしくない、とは思うものの、きちんとしたアリバイがないと困るのも確かだ。
それも以前、親になんの連絡もせず、良太の所に無断外泊してしまったからなのだが…
そして、何よりそんな響を家族が心配しなくてはならない要因がほかにもあるせいで、結果、響を取り囲む大人は皆、過保護な反応を見せるようになったのだった。
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