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必死になって追い縋った響に対する良太の態度はあまりにもあっさりしていて、その加減に響は不安を煽られる。
――不安。
不安にならずには、いられない。
良太の傍にいるのは、自分一人。
傍にいて、必要とされているからこそ体を差し出したのだから。
覚悟を決めたのだから、そんな分かり切ったことは考えない、悩まない……一人前の大人のように繰り返しその言葉を唱えながら、何度も不安に押し潰されそうになる自分を浮上させてきた。
それに、自分たちの間に誰も入り込めないよう、響なりの努力をしてきたつもりだ。
兄の光だって――自分たちの間に入り込む余地なんて…ないのだ。
そう、思っているのに…
良太の口から光の名前を呟かれただけで、響の固い決心は粉々に砕け散って、浮き上がっていたはずの気持ちが深海の底深く沈み込んでしまう。
――それほど兄・光の存在は、響を脅かす驚異な存在なのだ。
必死で虚勢を張るその糸を一瞬で目茶苦茶に絡ませ、やっと解けたと思った途端、何食わぬ顔をして現れ、千切ろうとする。
自分が必死な分、無自覚に良太の前に現れては彼の心を奪ってしまうその存在が――憎くも思えた。
(ダメだ)
電話で二人が楽しそうに会話している声とは反対に泣き出しそうになった響は、先にベットを出た良太に倣って全裸のまま毛布の下から出ると、一枚上に羽織ったたけのラフな格好のまま電話をしている良太のすぐ脇を横切り、シャワーを浴びに行く。
「…なげーんだよ」
優しげな面立ちに似合わない悪態をついてバスルームに入ると、もやもやする胸の支えを吐き出すようにため息をつく。
シャワーのコックを捻り頭から熱いシャワーを浴びていると、頬を伝い落ちる水の流れに、響が流した涙が混じり出す。
しかし全身でシャワーを浴びているうちに自然と心が落ち着いてきて、黒目がちな瞳いっぱいにたまっていた涙も掻き消え、ほっと安堵のため息が零れた。
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