地球人類保護計画

1/1
前へ
/1ページ
次へ

地球人類保護計画

 わたしはあの言葉が、攻撃だということを、知っている。 「○○さんにしかできないことだよ。期待してるから、頑張って」  。  この言葉が、どれだけ容赦ない攻撃かということを知っている。  あの子は今日、その言葉を投げかけられた。  あっちの子は昨日、その言葉を投げかけられた。  向こうの子は明日、その言葉を投げかけられる予定だ。徒党を組んで、そう相談していたのを、わたしは聞いていた。  皆、この言葉を投げかけられたいと願いながら生きて、この言葉によって、生きる希望を失くしていく。  生きている最中、”○○さんにしかできないこと” の成分を削りながら、それを成し遂げようとするからだ。成分が底をつき、できていたことが、できなくなったとき、皆、大抵は身を崖から放り出したくなるというもの。   地球人類保護計画が発足されたとき、わたしは四本あったうち、すでに三本の足を失くしていた。”○○さんにしかできないこと” の成分が底をついたからだ。  その計画では、前途ある人類が、これ以上、”○○さんにしかできないこと” 攻撃の犠牲にならないよう、どうにかして守っていく、という趣旨だったのだが、困ったことに、過去の犠牲者であるわたし自身にも、この攻撃で受けたダメージは根深いところまで浸透しており、三本の足を失うだけでは留まらず、足を形作っていた成分がなくなったあとも、膿のようなものが足の付け根に残っており、それは徐々に身体中を蝕もうとしていた。  その膿は、まるで意思を持っているかのようで、ことあるごとに、まだあの攻撃を受けていない若者に対して、同じ目に合わしてやれ、足を、目を、耳を、すべてを奪ってやれ! とささやきかけてくるのだ。わたしはこれはもう、二次災害に思えた。  そのうち、わたしはある若者に、この攻撃をしかけてやりたくて、たまらなくなっていた。わたしも若かりし頃、この攻撃をもろに受けたせいで、足がなくなり、義足を三本つけて、どうにか歩いているものの、もう二度と、走ることは叶わなくなったのだ。あいつにも同じ目に——! 「隊長! 逃走中の化け物を撃ち殺しました! これで地球人類保護計画で倒すべき化け物は、残り一匹になりましたね! どこに潜伏してようと、必ず仕留めてやりましょう!」  若者の兵隊は、老獪の隊長にさわやかな笑顔を向けた。 「うむ、よくやった。これはおまえにしかできない戦いだ。期待しているぞ、若者よ」  そのとき、若者の奥深くに、消えない膿が植え付けられたが、まだ若者はそのことに気づいていなかった。  若者の目の前にいる老獪の隊長は、残り一匹の化け物だったが、今、しっかりと、”○○さんにしかできないこと” の膿を、後世に伝えるべく、若者に攻撃を放った。  青い地球。地球人類保護計画。静かに、しかし確実に、化け物は人類との共存の道を進んでいる。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加