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「……素敵な思いが込められているのはわかりましたけど、それで僕の恐れはなくなりません」
ふらつき壁によっかかったままで瑞樹君は言った。まぁ、これからだいたい一千万のドレスにハサミを入れるのは彼だ。私達がなんといっても緊張はするだろう。
「もうとっととハサミ入れちまおうぜ。これ、二階の作業場に持ってけばいいー?」
焦れた綾都がドレスを担ぐ。ハサミを入れてしまえば少しは緊張もやわらぐだろう。
「あ、待って。まずドレスの布のどの辺を使えばいいか考えますから。あとドレスの状態確認に写真を撮っておくのでお二人のどちらかが立ち会って下さい」
「なんで?」
「ダイヤの数を確認してもらうんです。僕がこっそり一粒自分のものにしないように。使えそうにない布は捨ててしまうしかないけど、こればかりはきっちり確認回収してお返ししないと」
高額なドレスに恐れているだけあって、瑞樹君の管理はとてもしっかりしていた。確かに十数粒あったダイヤのうち一粒でもなくなれば疑われるのは私達だ。そして実はもうドレスのダイヤは紛失していて、それを福沢家が気付いていなかったとしても疑われるのは私達だ。
ここでダイヤの数をお互い確認して、それを預ける・管理すると契約しなければ。
「綾都、行ってくれる? 私はほら、階段きついから」
「はいはい。山登りで全身筋肉痛だもんな」
急な階段を見てげんなりとした表情でおばさまが言った。そして追い出すように綾都の背を押す。
なので瑞樹君と綾都とドレスが二階に上がり、私とおばさまが一階に残る。おばさまは筋肉痛を刺激しないよう慎重にソファに座った。
「結衣ちゃん、綾都がごめんね。あの子、結衣ちゃんにつきまとっているでしょ?」
二人きりとなれば、当然おばさまの話題はそれだ。綾都はあんなでもおばさまからしてみればかわいい我が子のはずだ。もしかしたら私が気に入らないのかもしれない。緊張が走る。
「気にせずきっぱり振っていいからね。あの子、悪い子じゃないし最近マシになったとはいえまだアレでしょう?」
「実の母親が言いますか……」
『アレ』とは私達も説明できない内容だ。乱暴者でもひねくれてるわけでもない。慎重さがないというのだろうか。デリカシーがないと言うのも近いかもしれない。それも改善されたわけだけど。でもなんだかその気になれないのは距離の近さもある、ということを理解してくれているようだ。
「綾都を甘やかすのは良くないって、最近になって私も麻里奈も気付いたのよ。根が悪くないからって放置してたけど、相手の今の状態を無視して色々押し付けられるのって、なかなかのストレスよね」
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