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コンビニ内に流れている広告のアナウンスが遠く虚しく聞こえた。
店内にいる客みんながあたしに白い目を向けている気がする。体がすくんで動けない。
咄嗟に確信した。
あたしにぶつかってきたのはこの女だと。
「さっさと行きましょぉ?」
女に促されて彼が椅子から立つ気配にあたしは敗北感と屈辱、恥ずかしさで目の前が真っ暗になる……その時。
あたしの鼻先をすごくいい匂いがかすめてきた。
「大丈夫?」
と聞こえた声が彼のものだとわかるまで数秒かかった。
真っ暗になったと思ったのはあたしが目をつむったからだった。
それに気づいて目を開けると、あたしの前のテーブルに広がるの茶色いシミを、高価そうな大判のハンカチが綺麗に拭き取っているところだった。
「きゃあぁ。先輩のハンカチが」
女の叫びが、近いはずなのにやけに遠くに感じられるのはなんでなんだろ。
「やめてください。汚いですよう」
と不満タラタラで女が言う。
「そんなことより、君もハンカチ出して」
「はっ?」
「持ってるでしょ。早く」
「……嫌です。いちお、ブランド物なんで」
「ブランドだろうと、ハンカチは拭くためにあるものでしょ」
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