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きつい口調に負けたのか、かの有名な半円が濃さするマークがこれでもかとあしらわれたハンカチを彼女が差し出す。
汚すなんて言語道断に見えるそれを、彼は容赦無くあたしの顎に押し当てた。
(ヒッ)と動揺して息を呑む気配。そして走り去るヒールの音。
問答無用でブランド物のハンカチをデブ(あたしのこと)の顔を拭くのに使われたのが、よっぽどショックだったんだろうなぁ……。
嫌な女だったけど、あたしは少しだけかわいそうだと思った。
だって、彼、彼女を振り返りもしなかった。引き止めることもしなかった。
彼女もこのひとのこと好きだったのに。
一つ置いて隣の席に座るあたしのことを目障りだってイジワルしちゃうくらい、彼に目が眩んでたのに。
報われない想いは、あたしにも見覚えがあるから……。
と、感傷に浸っていたら、
「ごめんね。元同僚が失礼なことして」
と、美しいお声があたしの頬の産毛を揺らしてきた!
ぴきき……と目だけ横に動かすと、お互いの頬がくっつきそうなほどの近さに白く輝く美貌がある。
信じられない急接近に、あたしは固まってしまった。
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