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3・嫌な男
これは、過去のことだとわかっている。
なぜなら、閉じ込めているけれど、何度も私の中で再生されてこの三年私の心を苦しめてきたことだったから。
過去のこと。
もう終わったこと。
でも私の中で済んでいないこと。
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街灯の灯りが、路面にほの白く円をスタンプしている。
月は限りなく線に近い三日月だった。
ここに来るのは何度目だろう。
ううん。何度目なんてこと関係ない。
自分に言い聞かせながら寒さからその場で足踏みした。
春といっても三月のまだ足元には冷気が残っていた。
歩道の隅に立つあたしの目に二人の人影が映る。
キャリーバッグをガタゴト言わせながら何事か囁き合い、軽い笑い声をあげて肩をぶつけて歩く男女の姿が。
あたしとの差は一体何?
彼女の頭から爪先までなぞるように見るけれど。彼がどうして彼女を選んだのかさっぱりわからない。
突き動かされるようにして彼と彼女の前に飛び出したあたしを四つの目がギョッと捉える。
「うわ、キモっ。なんでいるのお前」
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