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「まだ何か」
「あのぉ、私が探している人花水木星々先生とおっしゃいましてぇ。それはそれは有名な作家先生なのですよぉ。あ、私はセイ先生とお呼びしてるんですけどね。花水木先生じゃちょっと違うかなって。それに星々先生ってなんか呼びづらいでしょ。あー、私? 私編集者をしている羽仁みちよと申します。ここであったのも何かのご縁、お名刺いただけませぇんっ?」
「それよりあなた、朝から人のうちのドアをドンドン叩くなんて非常識ですよ」
「あぁっ、すみません。それについてはお詫びしますっ。何しろ締切が過ぎているのです。今日中に原稿を頂かないと私編集緒長にくびり殺されますのよ……」
コツコツと二人分の足音が遠ざかってゆく。
(ちょっ! ちょっと待って?)
「……ふぅ」
という蒼くんの大きなため息が聞こえて、外の方ばかりに意識を向けていた私はようやく我に帰った。
「ね、ね、ね、蒼くん。今あの女、花水木先生って言わなかった? 言ったよね」
蒼くんの目の前の壁にはいつの間にかポカリと穴が開いてた。あたしは見て見ぬ振りを決める。
今引っ掛からなきゃいけないのはそこじゃないから!
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