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「うまくいきそう?」
続けて聞かれ、頭の中に意地悪なオーナーの顔が思い浮かぶ。あたしはたまらず「うーん」と唸り声をあげた。でもそれ以上、面接でのあれこれを言う気になれない。それを言うことはあたしにとって自分のお腹をナイフで切って取り出した臓器の一つ一つ、コレステロールと糖分でドロドロでベトベトの血管の中まで晒すのと同じ……耐え難い行為だった。
蒼くんはあたしの顔色を見て(ダメだった)とすぐに察したようだった。
「えっと、疲れましたよね。おやつにマドレーヌ焼いたんで、これ食べて元気出してください」
手を引かれてダイニングテーブルの椅子に座る。すぐに大皿に山盛りにされたマフィンとアウアツン紅茶が目の前に置かれた。
マフィンは甘くて美味しかった。持ったりと口に残るバターの風味を紅茶で押し流していると、不意に面接でのやり取りが頭の奥にぶり返してきて泣きそうになる。
その歳でやりたい事ないの? って、聞いてきたオーナーの顔がブワッと瞼の裏に浮かんできた。
「その年で」→ああそうですよ、アラサーでしかも無職、特技も資格もありませんよ。
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