水面下の白鳥

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 *****  眺めていた、ずっと。ボート乗り場から彼とボートに乗ろうとしたときから。  見つけてしまった、今日という日に。昔の恋人の姿を。  けど気づかない。  彼が先にボートに乗り、私の手を取って乗せてくれた。  ボートが揺れて思わず「きゃっ」と声が出た。  そんな姿を見てめぐるは笑う。  めぐるとはまだ知り合って日が浅い。  数ヶ月前に共通の友人を通じて知り合った、それぐらいの仲。  ある集まりで、私があの公園のボートに乗りたいと話していたら「連れてってあげるよ」と声をかけてくれたのが隣にいるめぐるだった。  でもきっと私たちはカップルだと思われているんだろう。  お互い特定の相手はいなかったし、問題はない、はずだった。  視線を感じる。  きっと私の姿を見つけて見ている。  誕生日にもらった麦わら帽子。  リボンは付け替えたけど、まだ大事にしているなんて女々しい私。  別れを切り出したのは私の方だっていうのに。  環境が悪かった。  仕事が悪かった。  同じ職だったのに相談もなく辞めたのは、恋人の夢の邪魔をしたくなかったから。  せっかく念願かなって勤めることができたアパレル関係の会社を、私のことで悪くいわれリストラにあいそうになっているのを知ってしまったから。  ただ私が辞めるだけでそれを防げるならなんてことなかった。  それが原因で別れることになるなんて思っていなかったけど、それも良かったのかもしれない。  そのあと、店長に抜擢されたなんていう吉報が私の耳にも届いたのだから。  めぐるが私の名前を呼ぶ。「恋香、恋香」と。  「恋香もオールで漕いでみない?」と。  私は目の前にいる相手のことを考えず、過去にふけっていたことを申し訳なく思い、提案に乗った。  オールは思っていたよりもずっしりとくる重さがある。  いや、私が非力なだけなのかもしれない、と思い直す。  それぞれオールを左右の手で握ったまま、見よう見まねで漕ぎだしてみる。  水の抵抗を感じた。  感じた分だけボートは進んだ。  私の力でボート乗り場へと戻っていく。  *****
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