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月光と海
お土産コーナーで音波が、見たいものがあるからちょっと待っててと言われ、少し心配だったが待つことにした。
10分後、音波がお土産コーナーから出てきた。
手には、何かキラキラ光るものが2つ見えた。
「はい。いいものあげる。前来たときに気になってたんだよね。ちょっと高かったけど。あはは。」
イヤリングだった。
イヤリングの先にはクラゲの模様が描かれ、角度を変えるごとにキラキラと輝いた。
「ありがとう。おしゃれだね。あ、でも俺、耳穴空けてない。」
「大丈夫だよ。ピアスと違って横のネジで止められるようになってる。」
「ホントだ。こうか?お、付けられた。どう?」
「似合ってる似合ってる。さすが私、あはは。」
音波にもらったイヤリングを付けて、俺達は水族館を出た。
夜、前と同じレストランでご飯を食べた後、外を一緒に散歩した。
彼女が言った。
「私、ビーチに行きたい。今日まだ海ちゃんと見てないんだよね。あ、ビーチまでは少し歩けるから大丈夫だよ。」
そういえばビーチに行ってなかったな。
前回は次の日大学があるからって帰ったっけ。
今日は1泊2日だから余裕があるな。
取ってる宿の近くで探してみるか。
民宿から5分ほど歩いたところにビーチがあったので、そこへ行くことにした。
道路は少し明るいが、ビーチへと続く階段から暗くなっていく。
スマホのライトを頼りに、階段を降りていく。
「足元が全然見えないや。昼はあんなに明るいのにね。」
「そうだな。今日が満月じゃなかったらもっと暗いんだろうな。」
「だね。それにしても、落ち着く。」
ビーチに着いた。
誰もいない砂浜で、2人。
静かな空間の中で、波のさざめきが時折吹く風と共に流れていく。
満月の光が海を照らし、キラキラと輝いている。
「今日はありがとうね。すごく楽しかった。またこうして2人で来れたらいいなあ。」
「俺も楽しかった。また来ような。」
「うん。そうだね。」
また、か。
もう一度水族館デートをする時には、分かっていた。
彼女は、長くない。
だからこうして、また水族館デートをしたんだと思う。
分かっていても俺は、音波とずっと一緒にいられる未来を考えた。
これから先、何年も、何十年も、君のとなりにいたい。
そう、思った。
その時、音波が言った。
「ライト消してみて。上を見上げてごらん。」
スマホのライトを切った。
空を見上げた。
綺麗だ。
そこには、満月とともに数えきれないほどの星が輝いていた。
小さな星、大きな星、明るい星、暗い星、それのどれもが宇宙という1つの空間に集まり、天の川を作り出している。
今、俺達がいるこの星も天の川の1つなのだ。
そして、そんな数えきれないほどの星々同士を1つずつ繋いで出来る星座は、まさに神秘ともいえるだろう。
こんな絶景を前に立つ彼女の姿は、宇宙が生んだ、俺にとって最高の宝物であると改めて実感する。
月の光に照らされて、さざ波が揺れる海を前にした、黒いシルエットの音波の横顔がうっすらと見える。
少し笑顔で、どこか寂しい表情にも見える彼女がいた。
音波が俺を見て言った。
「綺麗だね。」
俺は答えた。
「ああ、とても綺麗だ。」
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