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その日は突然
デートから3日後。
昨日まで、来週に控えたライブに向けて音波とギターの練習をしていた。
部屋が個室のため、エレキギターであれば部屋で軽く弾くことが出来る。
弦を押さえる力が弱くなっていたが、それでも音波は完璧に弾いた。
また、サークルメンバーとまた練習する時間も何度か取ることが出来た。
音合わせなどは、会議室を借りたりするなどして、ビデオ通話を使って練習していた。
ギターを弾けて、音波はとても嬉しそうだった。
「また明日来るよ。」
病室の扉を開け、俺は彼女に手を振る。
「うん。またね。」
俺を見て音波はニコッとした。
まさか、これが音波との最後の日になるなんて、この時は思ってもいなかった。
ライブでの曲とは別に、バンドメンバーと一緒にもう1つ、少しずつ進めていた音波へのサプライズ企画があった。
彼女のために一曲披露するというサプライズだ。
ギターが好きな音波のために、ライブの曲とはまた別に練習してきた曲があった。
俺が作った曲だ。
彼女への最高のサプライズになるだろう。
それを、ライブで音波に見せてやりたいと思う。
そして今日、俺はサークルメンバーと共に練習をしていた。
今日の練習も終わり、帰り支度をしていた時、電話が鳴った。
音波の母からだった。
俺は電話を取った。
「はい。奏音です。」
「音波が危篤で!意識がなくて!」
突然だった。
電話の向こうで音波の母がとても慌てているのが分かった。
「す、すぐ行きます!」
俺はタクシーを捕まえ、急いで病院へと向かった。
いつか来るだろうというのは分かっていたが、その日は突然やって来る。
病院に着くまでの間、いつもより時間が以上に長く感じる。
物凄く、じれったい。
とにかく、早く病院に着いて欲しい。
その一心だった。
しかし、こういう時に限ってなかなか着かない。
俺はスマホを取り出した。
メッセージを開く。
「せめて、これだけでも、。」
音波の母に、リハーサルで録画をしておいたライブの音合わせの部分と、サプライズ企画の曲の2つを、これを音波に見せて欲しいというメッセージと共に送った。
病院に着いた。
俺は急いで、集中治療室のある部屋へと向かった。
「はぁっ、はぁっ。」
息を切らしながら、廊下を駆けていく。
集中治療室は、確かこの奥だ。
「はぁっ、はぁっ、間に合えっ、間に合えっ、。」
集中治療室の前に着いた。
手術中である赤い電気は、消えていた。
廊下が暗い。
集中治療室の隣の部屋で、誰かの泣き声が聞こえる。
全てを悟った。
俺は、静かにその部屋の扉を開けた。
そこには、音波の父と母がいた。
そして、目の前にはベッドに仰向けになり、顔に布を被せられている音波の姿があった。
ああ。
こんなのって、ないだろ。
だってまだ、俺は音波にお別れの言葉すら言えてないんだぞ。
そんな、そんな、。
俺は絶望した。
彼女が倒れて、白血病と診断されてから約3ヶ月。
あまりにも早かった。
呆然としているしかなかった。
その日のことは、よく覚えていない。
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