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音波のいない世界
葬儀が終わって、俺は家に帰った。
無だった。
悲しいという感情も、寂しいという感情も、何だかよく分からなかった。
大切な人を失った。
それなのに、涙が出ない。
ただただ、無の感情が続いた。
葬式で見た音波の顔は、まるで眠っているだけかのようだった。
揺さぶれば、起き上がるんじゃないかというくらいに。
家に帰って、俺はずっと窓の外を見つめていた。
あぁ、暇だな。
病院行くか。
何しに?
それと、バンドの練習が途中だったな。
見せてあげられるように練習しないと。
誰に?
いつもそばにいた大切な彼女を失った今、俺にはやることがない。
音波のいない世界。
ただ、ひたすら無の感情が俺を包んだ。
君がいない世界で、俺はどうすればいいの?
音波との思い出は曖昧になっていった。
彼女自体、幻だったのかもしれない。
1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち、それでも寂しいといった気持ちや悲しいといった気持ちはなかった。
無の感情が続いていくうちに、いつの間にか俺は音波との思い出を思い出せなくなっていった。
そして、今に至る。
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