24人が本棚に入れています
本棚に追加
向かった先は
音波の部屋の整理も終わり、俺は1階のリビングにいた音波の母に声をかける。
「お母さん、終わりました。他に何か手伝うことはありますか。」
「ありがとう。あとは大丈夫よ。またいつでも遊びに来てね。音波も喜んでると思うわ。」
「もちろんです。また来ます。」
音波の母に挨拶をして、俺は音波の家を後にした。
家を出て、時計を見ると、時刻は午後5時を過ぎていた。
外はまだ明るかったが、溶けるような暑さは落ち着いていた。
今日は久しぶりに家に行ったな。
部屋も、そのままだった。
でも、音波との日々が思い出せない。
結局、俺は無感情だな。
彼女がいなくなってから、もうすぐ1年が経つというのに。
建物と建物の間から辺りを照らす夕日を見ながら、俺は思った。
家に着いた後、俺は自分の部屋のベッドででゴロンとしていた。
さて、今日もやるか。
俺は起き上がり、机の引き出しから音波のスマホを取り出して、パスワードを打ち始めた。
葬式が終わった後、音波の母が、彼女の携帯を持っていて欲しいと俺に渡したのだ。
俺と一緒に撮った写真やサークルでの写真などが詰まっているので、持っていて欲しいとの事だった。
ただ、パスワードが分からない。
音波との思い出も曖昧な上、彼女が使っていたパスワードなど分かるわけもない。
とりあえず、手当たり次第パスワードを入れてみるが、もちろん開かない。
正直、諦め半分だった。
1日1回コツコツパスワードを入れているが、結局開かないので、携帯会社に頼もうとも思ったが、いつも、今日なら開くかもという思いがあり、今に至る。
今日も、開かなかった。
ふと、壁にかかっているカレンダーを見た。
カレンダーをめくる。
音波の命日、もうすぐか。
来月の命日には赤ペンで丸がしてあった。
彼女がいなくなってから、もう1年。
早いな。
そして、今月の下旬にも赤丸がしてある。
その日は、俺と音波が最後に水族館デートをした日だ。
俺は、手元にある彼女のスマホを見つめる。
思い出が詰まり、ロックのかかった彼女のスマホ。
そして、思い出に出会える、不思議な水族館。
俺は、この2つから何かが分かるかもしれないと思い、水族館に行こうと赤丸をした。
うん。
行こう。
もう一度同じ景色を見に行きたい。
そう思った俺は、水族館へ足を運んだ。
最初のコメントを投稿しよう!