サプライズ

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サプライズ

次の日。 今日は大学が3限で終わったので、いつもより早めに来た。 病室の扉を空け、カーテンをめくる。 「来たよ、ってあれ、いない。」 飲み物でも買いに行ったのだろうか。 ふと、窓の外を見る。 ここの病室からは病院内の庭が見渡せる。 「ん、あれは。」 部屋から見える庭のベンチに、音波がスマホを持って座っているのが見えた。 散歩かな。 誰かと話している様子もない。 1階へ降りて、庭に行った。 外は5月ということもあってか、暑くもなく寒くもない、ちょうど良い気温だ。 「あ、いたいた。」 音波に声をかける。 「こんなところにいたのか。」 「わぁ奏音!今日は早いね。」 「授業が3限までだったからな。てか、目赤くして、どうした?」 「ううん、何でもないよ。それより、今日は何する?」 音波が嬉しそうにニコッと笑った。 その笑顔に、俺はいつも癒される。 2人で少し散歩をした後、俺達は部屋へ戻った。 彼女がベッドに腰を掛ける。 病室ではテレビかスマホを見るくらいしかやることがない。 そのため、暇をするだろう音波のために今日、俺は色々と準備をしてきた。 時計を見て、時間を見計らう。 そろそろかな。 「ちょっとここで待ってて。」 「うん、何だろう。」 俺は病室を出た。 少しして、病室へ戻る。 「準備完了、こっちこっち。」 俺は彼女に手招きをして、病院の中にある会議室へと案内した。 そして、その間に俺は電話をかける。 「もしもし、病院着いた。それで、準備も出来たからいつでも大丈夫だよ。」 会議室の扉を開ける。 正面にはスクリーンが出ており、部屋の広さは教室ほどだ。 「会議室?って、あ!ギター!」 「お前弾きたがってただろ?ここなら弾けるし、ちょうど良いと思ったんだ。」 「やったぁ!嬉しい。」 「それと、まだもう1つ。」 俺は通話中のスマホとプロジェクターを繋げ、スイッチを押した。 目の前のスクリーンにサークルメンバーが写った。 「やっほー音波!久しぶり-、元気?」 「わぁ!久しぶり!元気だよー!」 昨日、病院から帰る時、会議室が予約制で使えるとの張り紙を見つけた。 そして、音波がギターを弾きたがってたのを思い出し、この案が浮かんだ。 サークルのメンバーとは話をして、ちょうど練習時間に繋げようということになったのだ。 さて、上手く繋がったことだし、練習を始めるとするか。 久しぶりに音波のギターを聞いたが、やっぱり上手い。 練習会がほとんど講習会のようになっていた。 それから、2時間くらいだろうか。 「じゃあね!またね!」 練習会が終わった。 俺達は会議室を出る。 病室に戻る時、音波が俺に言った。 「奏音、今日はありがとう。まさかギター持ってきてくれるなんて思わなかったよ。」 「ははは、良いサプライズになったな。」 また、ギター弾く機会を作るか。 俺はそう思った。 「じゃあ、またな。」 「うん、またギター弾きたい。」 「あぁ、分かった。」 音波に手を振り、俺は病室を出た。 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。 街灯も少なく、静かだ。 空を見上げると、ちょうど流れ星が見えた。 「おっ、流れ星!」 俺は目を瞑って、お願い事をした。 この先、音波と離ればなれになっても、また出会えますように。 流れ星がキラッと輝いて夜空へ消えていった。
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