2度目の告白

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2度目の告白

それから3ヶ月が経った。 俺は今日も病院に来ていた。 「今日も来たね。」 音波は一人部屋に移され、長時間歩くことすらもままならなくなった。 入院して、病院に通い続けている中で喧嘩もした。 もう来ないでと言われたりもしたが、本当は、日に日に弱っていく彼女が気を遣われたくないから、そういうことを言ってるのだということは、分かっていた。 この3ヶ月で、本当に音波なのかと思うくらいに、彼女は痩せ細っていった。 正直音波に会うのが、辛くて仕方がなかった。 会うたびに音波が音波じゃなくなっていく。 音波がいなくなってしまったらと思うと、とても怖かった。 「どうしたの、そんな顔して。ほら、こっち来なよ。」 彼女が俺を抱き締めてくれた。 嬉しい気持ちと共に、痩せ細ったその体からは不安と寂しさを感じた。 早く退院して一緒にライブをしたい。 そんな時、音波が言った。 「私、水族館に行きたい。」 俺は答えた。 「俺も同じこと思ってた。行こう。」 そこは、俺達が初めてデートをした場所。 幻想的な空間が広がり、たくさんの種類のクラゲを見ることが出来る、クラゲの水族館。 俺達が、ここを初めてのデート場所に選んだのには理由があった。 それは、水族館にまつわる不思議な話があったからだ。 以前、彼女がこんなことを言っていた。 「ねぇ、奏音。水族館ってね、見に来た人を夢に誘うんだって。水槽を見てると、いつの間にか夢に引き込まれて、懐かしい景色とか思い出に出会えるみたい。だからさ、そんな場所に思い出を作りに行こうよ。もう一度、夢を見れるように。」 その水族館で、彼女はまた思い出を作りをしたいようだ。 そしてそれは、俺もまた、同じ思い。 話していくと、初めてデートをしたその水族館で、また告白して欲しいとのことだった。 「外出出来るかどうか、お医者さんに相談するよ。いつ行くかは、決まってるな。」 「うん。来週の日曜日。私たちが初めてデートした日。」 そうだな。 そうしよう。 そして、日曜日。 俺達は水族館へやって来た。 2人で一緒に出掛けるということで、医者から2日間の外出許可が下りた。 俺は車椅子の音波を押して、館内を一緒に回った。 「わぁ、このクラゲ、綺麗。真っ白で、ふわふわしてて可愛い。」 音波が、水槽を見て目を光らせていた。 そこには、真っ暗な水槽の中で一匹さ迷うクラゲがいた。 「ユウレイクラゲって言うらしい。」 「へぇ、そうなんだ。前回来たときはいなかったよね。新しく来たのかな?」 いつまでも見ていられるような、どことない動き。 音のない空間をひたすら、頭を動かして進み続ける。 それに波打つように、触手がゆらゆらと揺れる。 そんな一匹さ迷っているクラゲを見て、俺は親近感を感じた。 何故だろう。 ああ、そうか。 俺達2人が離ればなれになった時、きっとこのクラゲのように、お互いあてもなくさ迷ってしまうんだなと思ってしまったんだ。 彼女が俺の方を振り返る。 「奏音?どうした?」 「ううん、何でもない。他の展示も見よう。」 「そうだね。あ、あっちの展示見たいな。」 一通り館内を回り、最後の大展示の部屋にやって来た。 数えきれないほどのクラゲたちが泳ぐ大水槽。 そして、暗闇の中で輝く、青い景色の前に置かれたグランドピアノ。 「やっぱりここは迫力あるな。」 目の前の大きな水槽を眺めていると、音波が振り返った。 「ねぇ、奏音。」 彼女が俺を見つめている。 俺には分かっていた。 そう。 1年前の今日、俺はここで彼女に告白をした。 俺と音波との、始まりの場所だ。 音波が車椅子からゆっくりと立ち上がる。 大水槽の前で、二人で向き合った。 そして。 俺は、彼女に2度目の告白をした。 そして、キスを交わした。 キスが終わって、音波が笑顔で俺に言った。 「ありがとう。」 この時の彼女の笑顔は、今でも忘れない。
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