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音波の家
-君がくれた幸せな日々-
-それは、2人にとって永遠の宝物-
-あの日の夢を、もう一度-
夏も終わりに近づいてきた8月の下旬。
今日も強い日差しが辺りを照らす。
じめじめとした熱を受け、汗でびちょびちょになったTシャツをバタバタと仰ぎながら、俺は音波の家へと向かっていた。
そして今、俺は音波の家の前にいる。
玄関の扉が開いて、音波の母が出てきた。
「いらっしゃい奏音君。今日は暑い中、わざわざ来てくれてありがとう。」
音波の母が俺を歓迎してくれた。
「お久しぶりです、お母さん。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。ささ、奏音君。上がって上がって。」
音波の母に背中を押されながら玄関へと入る。
懐かしい玄関。
ここへ来るのは、いつぶりだろう。
開けた玄関と、その空間を照らす大きな丸い電球。
キョロキョロと家の中を見渡しながら、靴を脱いで音波の部屋へと、目の前の階段を上る。
階段を上って、左手にある部屋が、音波の部屋だ。
一段ずつ、トントンと階段を上っていく。
ドアノブに手を掛けて、ゆっくりと扉を開ける。
「懐かしいな、。」
久しぶりに音波の部屋へ来た。
部屋はあの時のままだ。
左隅に置かれたベッド、正面の本棚、丸い絨毯にシンプルな机。
さて、どこから手を付けよう。
とりあえず、小さなものとかをダンボールにつめていくか。
俺は、音波の部屋の荷物整理を始めた。
少し開いた窓から、カーテンをなびかせるように風が入り込んでくる。
暖かくもなく冷たくもない風は、どこか寂しさを感じさせる。
机の上には、俺と音波との写真が飾られていた。
2人でデートをした時に撮ったやつだ。
日が当たっていたのか、2人の顔はかすんで見えなくなっていた。
何か凄く思い出深かったような、気がする。
クラゲのぬいぐるみがベットの上に置かれていた。
お土産コーナーで買ったんだよな、たしか。
何で、買ったんだっけ。
部屋を片付けていると色々なものが出てくる。どれも俺と彼女との想い出の品ばかりだ。
一緒に買い物したレシートまで残してる。
こんなの買ったっけな。
あれ、。
何か、全然思い出せない。
どうして、こんなにも覚えてないんだろう、俺。
手帳を見る。
来月は彼女の命日だ。
あれから、もうすぐ1年か。
君がいなくなってから、俺は無感情だ。
2人で過ごした日々。
君の姿や、笑った笑顔が好きで、。
あれ、。
君とは一体、どんな日々を過ごしたっけ。
君は、。
どんな風に、笑ったんだっけ。
俺と音波との出会いは2年前の春に遡る。
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