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「理…っ」
母さんに言われて、親父は我に返った。
「斗和は、警部補として東京に戻ってきて渋谷にいるけど、キャリア組だからすぐに出世するだろ。あいつ、優秀だぞ。お前も早く、続け。いずれは同じ部署で働くことができるかもしれないな」
「うん。それも約束してる!」
俺はそう言ってニッコリ笑ってみせると、親父は「あ、そうだ」と言って立ち上がり、ハンガーポールにかけてある自分のジャケットのポケットを漁って、何かを取り出し、俺に向かって歩いてくると、
「これ、やる」
と言って腕時計を差し出した。
「雪子が俺にくれた腕時計。これで俺は警部までのし上がった。次は、お前の番だ」
そう言って、親父は俺の左腕の手首に腕時計をはめてくれた。サイズはピッタリ。母さんも歩み寄ってきて、
「新しいの買うわよ?古くない?」
と微笑んで言うけど、俺は首を横に振って、
「これでいい。何より、嬉しい」
と言うと、親父もなんだか嬉しそうに微笑んだ。
「応援してる。お前なりに、好きなようにやれ。俺のことは気にすんな」
「親父」
「寮を出ていずれ一人暮らしするなら、それでもいいし、ここから通ってもいい。でも、雪子を思うなら…」
親父はそう言って隣にいる母さんを見つめると、母さんは小さく頭を横に振った。
「そんなこと、気にしなくていい。大地は大地で、好きにやりなさい。私と理は、いつでも大地の味方よ」
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