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連休が終わり、あの人は東京に戻って行った。
駅のホームで見送った後、また、気がつくと私は、この店にやって来ていた。目の前で閉じられた電車のドアに向かって、手を振っていた時から、私の頭の中は薄ぼんやりした霧がかかったようで、お店までどうやって歩いて来たのか、はっきりとは覚えていなかった。
入口から一番奥のいつもの窓際の席に座り、店の中を見渡すと、何もかもいつも通りであるにもかかわらず、そこにいるべき人がいないという喪失感が、どうしようもなく胸を締め付けてくる。
「ミルクティーを、下さい」
「かしこまりました」
いつものようにオーダーを聞き、ゆっくりとカウンターに向かって歩いていくマスターの後ろ姿を見ているうちに、ずっと我慢してきた涙が、ぼろぼろとこぼれ始めてしまった。
永遠に変わらないものなんてない。けれど。私の幸せの園は、間違いなくここにあった。
<完>
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