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幸せの園
この席に座るのは、これで何十回目だろう。入口から一番奥の窓際。お店に入って来る人がいればすぐにわかる。
いつもなら、次こそは、次こそはと、ときめきながら待っていたはずだけど、今日は違う。
あの人は来ない。
ずっと一緒にいられるはず、と勝手に思っていたのは私の独りよがり。そんなことはわかっているし、いつかこうなることも、きっと心の隅ではわかっていた。でも、そんなことに気づきさえしなければ、永遠に変わらないと思い込もうとしていたのかもしれない。
「恋人ができた」
そう言われたのは、先週のこと。友達として、一番の親友として祝福してあげるべきだった。そしてその良心に従って、おめでとう、と言ってあげた。
「今度、紹介する」
明るい笑顔で。いつも私の心をつかんで離さなかった、天使のような笑顔で、もっとも残酷なことを言われてしまった。
この4月から、ずっと一緒だった中学、高校を卒業して、それぞれ別々の大学に進んだ。その時から、こうなることは見えていたのかもしれない。幸せの園は終わってしまった。
私に、他の選択肢はあったのだろうか? どう考えても思いつかない。最初から、こうなる定めだった。
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