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一瞬口ごもってから、こくんと頷いた。思った以上に先生を見て緊張しているのを感じた。こんなに焦っている僕のことを悟られたくはない。だから僕はただ黙って頷いたんだ。
先生はお構いなしだ。鞄をやわらかい青草の茂みにおいて、僕の方に二、三歩歩み寄った。僕は無意識にあとじさる。夏の日差しを頬に感じた。蝉の声が遠く近く響く。ほんのわずかなひととき。そのとき、思いがけず涼やかな風が吹き抜けた。先生は麦わら帽子を押さえた。
「オリバー、久しぶりね、私が分かる?」
帽子で顔半分を隠したようにしながら、先生は白い歯を見せて笑っていた。
僕は息を吸うとまた、こくんと頷く。
「本当に? よかった。あなたが五歳くらい頃かしらね、最後に会ったのは」
ほどけるような快活な声。僕は誘われるようにようやく口を開いた。
「僕はもうすぐ、中学生だよ」
「十年ぶりくらいかしら?」
算数の苦手な僕にも先生の計算は大雑把な感じがしたが、黙っていた。
何で、小学生だと言わず、「もうすぐ中学生」だと言ったんだろう。背伸びしてるみたいに思われたかな。僕の頬はより熱くなる。日差しのせいばかりではない。内側に火が灯ったようだった。
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