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先ほどのパティオが眺められる、ソファとテーブルを用意した一角にマリア先生を案内した。
「あら、室内から見ても素敵ね」
先生の誉め言葉に、つい頬が緩む。
「でしょ? うちの自慢なんだ。母さんも言ってた。いかにも田舎宿ってイメージだけは持たせたくない、って」
「お母さまらしいわね」
僕は先生の言葉を聞きとがめた。
「マリア先生は、僕のお母さんのこと、よく知っているの」
聞きたくなったのは、母からはマリア先生の話はあまり出ないからだった。
「『先生』はやめて。マリアでいいのよ」
先生、いやマリアはくすぐったそうに言う。
「君のお母さまにはお世話になったのよ。お花の育て方は今でもよく覚えているわ」
「そうなんだ」
意外な言葉に僕は期待感をふくらませた。マリアは、ティーカップのミントティーを静かな息を吹きかけてさましている。そういうしぐさも、田舎育ちの僕にはまぶしく見えた。いい香りが辺りに満ちるようだった。まるで先生がその香りを発しているかのような。
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