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不思議な夜
お祈りをして僕たちは料理に向かった。今日はマリア先生というお客様がいるから、豪勢なディナーだ。
僕はもちろんお腹がぺこぺこだったから、ビーフステーキに真っ先にかぶりつく。母さんも父さんも、黙ってまずはブレッドをちぎる。
僕は先生をうかがった。先生は新鮮な野菜サラダにフォークを伸ばす。大事そうに口に運んで、ゆっくりと味わっているようだ。
「やっぱり、新鮮さに勝るものはないですね」
にこりとして先生が言う。誰も答えない。
「ソースもとてもおいしい」
相変わらずそっと蜜の味を味わうように、先生は上品に口を動かす。まったく気にしているようすはない。
母さんは料理自慢で、お客様に褒められると、急におしゃべりになる。自家菜園で育てた野菜がいかに新鮮かとか、ソースの和え方に一工夫を加えていることとか。そして口癖のように「何もない田舎だけど、食だけは豊かなんですよ」と自慢げに言う。
正直僕は母さんの料理しかほとんど食べたことがないから、それがそんなに美味しいものなのかよくわからない。お客様もお世辞を言っているだけだとしたら、母さんの自慢は度を超えすぎていて少し恥ずかしいのではないか、などと気を揉んだりもする。ましてや、ソースのレシピなどを母さんが紙に書き始めたりすると、ちょっといたたまれない。
けれど今日、マリア先生の表情を見て、僕は何か肩の荷が下りたような心地がした。安心して自慢してもいいんだな、と。
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