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「違います。異臭にですよ、異臭に」 「ん? 『異臭』? 何の?」 「熊五郎のですよ。だってそうでしょう? ただでさえオヤジ(しゅう)があるところに、酒飲んで、汗かいて、失禁しているのですから、それはそれは強烈な(にお)いがお嬢さんを襲ったことでしょう」 「ほう。……で? お嬢さんはどうするのですか?」 「つい、鼻を近づけて、その(にお)いを確認してみたくなるのです」 「あー、その心理も働くんだ。……いずれにしても、お嬢さんは熊五郎さんに感謝を述べますね。確か、そういう歌詞でした。そして感謝のしるしに『ラララ』と歌を歌うんですよね」 「その通りですとも、左くん。このとき、お嬢さんはどんな歌を歌うのがベストだと思いますか?」 「う~ん……そうですねぇ……司さんはどうなのです? イメージしている歌があるのですか?」 「そうねぇ……普通、これだけダメージを受けている人がいたら、病院に連れて行こうとするものです。でも、お嬢さんはそうしなかった。……と、いうことは、もう、『くまさんは助からないわ』と諦めたということなのでしょう。『最期はわたしが看取ってあげるわね』とかなんとかいう母性のような感情が芽生えたことが推察できます」 「なるほど」 「ですから、お嬢さんの“ラララソング”は、熊五郎にとっては息を引き取る際の耳に届くラストメッセージでなければなりません」 「熊五郎さんの心に深く沁みるものを選択してほしいものです。……それで、結局、お嬢さんは何を歌うのですか?」
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