1人が本棚に入れています
本棚に追加
⑤
「お嬢さんと対面した次の瞬間に、この熊五郎が放った台詞について熟考した結果、そのイメージがわたしの中で定着しました」
「『熊五郎』? それでいくの?」
「あれ? 熊吉の方がいい? 熊吉にしておきましょうか? わたしはどちらでもいいんですけどね」
「二択なんですね?」
「熊之助や熊徹、熊彦、熊蔵なんてのもありますから、何択にでもできますが」
「……いいですよ『熊五郎』で」
「なにそれ! 無駄に数行使わせましたね! 最初から受け入れてくださいよ、もう! 左くんのバカ! カニ! ニラ! ラブ!(ぽっ♡)」
「この度はしりとりにしたのですね。まあ、どうでもいいんですけど……」
「ホントにもうッ、話を戻しますからね。熊五郎の最初の台詞、左くんは覚えてるのか? って訊いてんのよぅ」
「えーと、熊五郎さんが最初に放った台詞は、“お嬢さん、お逃げなさい”のはずです」
「そうよ、そうなのよ! そこんとこ脈略がないのよ! 変でしょう? 出会って目が合った瞬間に『お逃げなさい』ってどういうことですか? おそらく『くまさん』もとい熊五郎は、酩酊することで自身の中に押さえがたい別の危険な人格が発動することを、これまでの人生経験上わかっていたことが考えられます。
だから、大好きな酒を飲むときは、周りに人がいない森の中での独り酒、と決めていたのでしょう。
ところが! 顔見知りのお嬢さんと鉢合わせしてしまいました。驚いた熊五郎は、彼女の名前も思い出せないほどの朦朧状態の中で、かろうじて残っていた理性を絞り出し警告したのです!」
「ほー、『危険な人格が発動』、ですか?」
最初のコメントを投稿しよう!