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「ま、端的に言うなら変態ですよ。たぶん、全裸になって誰彼なしに襲って唇を奪ってしまうのでしょうね」 「ステテコ姿ということは、既に脱ぎ始めているということですか?」 「あ、そうかもしれないわね。極めて危険な状況ですね」 「そういうわけで、お嬢さんは、言われたことに従い逃げ始めるわけですね」 「そーそー、猛烈ダッシュですよ。でもね、しばらく走った後、お嬢さんは後方に異様な気配を感じて振り向きます。そして、背筋の凍る思いをするのです!」 「ついて来ているのですものね。熊五郎さんが」 「その通り! 左くんは、熊五郎がどんな形相だったと想像します?」 「多量の酒を飲んだ酩酊状態での全速力ですよね? ということは――」 「ハイ、『ということは』?」 「アルコールを分解するためには肝臓への血液供給が不可欠です。にもかかわらず、走ることで筋肉への血液供給が優先される状況ですね。加えて、運動することで、いつも以上に酔いも早く回ってしまいます。身体は相当な負担を強いられることになりますよ。  ですから、おそらく熊五郎さんの顔面はチアノーゼを起こして紫色になっていることでしょう。その上、目は血走り、こめかみには切れそうな勢いで血管が浮き出ているでしょうね。平衡感覚も乱れているはずですから、何度も転倒して幾らかの出血もしていることでしょう。転んだ拍子に持っていた一升瓶が割れたりしていたら、ガラスの破片で生身を傷つけて鮮血をまき散らしている可能性もあります。  その上、頭髪はハゲ散らかし、失禁でステテコも変色している――そんな絵が脳裏に浮かびます」 「うわ、怖ぁ……」
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