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「そして、呼び止めようとするのでしょう?」 「“おじょおさ・ん♪~、お待ち・な・さぁ~い♬” なんて呑気な雰囲気はなさそうですね?」 「司さん、それはあり得ないですね。脱水状態の熊五郎さんは、喉が乾燥しきっているはずです。まともな発声は望めません。それでも前方を走る少女を呼び止めなければならないわけです。絶命を覚悟でありったけの力を込めて叫ぶしかありません! 叫んだ瞬間にこめかみの血管は切れますね、ああ切れますよ」 「そこまでしないといけない理由って何でしたっけ? あそーそー、お嬢さんが落とした“白い貝殻の小さなイヤリング”を渡すという使命でした」 「切ないですねぇ……」 「いずれにしても左くん、お嬢さんは立ち止まることになりますよ。そういう歌詞ですから」 「きっと、熊五郎さんは血管が切れた拍子に相当ド派手に転倒するのでしょう。少女が立ち止まるのは、その際の音に対する自然な反応と考えることができるかもしれません。その後おそるおそる振り返ってみると、おっさんがうつ伏せに倒れている光景が目に入ります。ピクリ、ピクリ、と痙攣していることでしょうね」 「心配になるわよね」
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