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ああ、そうなのか。
付き合ってからちょうど1年が経った日、恋人の須磨が電話している内容を聞いて、俺はただそう思った。
「だからさ、別に俺は好きでもなんでもないって。ただ、男と付き合うことの興味本位とか、あと金。……うん、そう。持ってるからさ。信じやすいし。うん、うん……そう」
まだ夜は深く、窓の外は暗い。すべてを飲みこもうとするばかりに、ただ、暗い。
数秒前まで須磨の熱が体に残っていて暑いほどだったのが、今や真冬に雪が降りしきる外へ放り出されたように、寒い。
けれど、思うのはただ。
ああ、そうなのか。
それだけだ。
須磨が裏切っているかもしれないのは、実は薄っすらと気付いていた。気付いていても、気付かないふりをしていた。
いや、違うな。
自分の本当の思いに気が付いて、俺はふっと口元を歪めて笑う。
須磨が好きだから、裏切っているというのは考えもしなかった。ちらりと頭を過ぎりはしても、須磨を信じていたから。
俺が、須磨を信じたかったから。
俺が聞いているとは知らないまま、須磨は電話を続けている。程よく筋肉のついた背中、首の後ろにある二つ並んだ丸いほくろ。
俺はその二つに指を這わせて、須磨の首を絞めるところを想像する。甘い震えが体に生じて、ぶるりとした時に、須磨が電話を終えて振り返った。
それを目を閉じたまま気配で感じていると、須磨は俺の髪を撫で、額に口づける。
さも、愛しい相手にするような仕草に、俺はたった今の今まで感じていた衝動が鎮まるのを感じた。
須磨は何も知らないまま、俺を腕に抱いて再び横たわる。ゆっくりと呼吸し、眠りについていく様子を腕の中で感じた俺は、自分の片眼から零れ落ちた雫をそのままに、静かにそっと笑う。
これだから、俺は須磨から離れられないのだ。と。
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