1人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日の朝、俺はチラシに書いてあった電話番号に掛けてみることにした。
プルルルル…
「もしもし、高倉です。」
しわがれ声が電話で名乗る。
「あの、公園でチラシ見て。500円のアパート?借りたいんですけど…」
「ああ、あのチラシを見たんですね。」
「ほんとに500円なんですか??あと扉交換料?だけで借りられるんですか?俺、ホントお金とか無いんで。」
舐められないように、ぶっきらぼうな少し圧のある声で聞く。
「はい、本当ですよ。トイレ共同、風呂なしですけどね。電気水道は別で月一律1500円。」
じーさんも俺に負けず中々ぶっきらぼうな声だ。
頭の中で月500円+扉交換料1000円+電気水道1500円だから、うん、ギリギリ足りる…と計算した次の瞬間には
「貸してください。なるべくはやく。」
速攻で申し込んでいた。
「はい、じゃあ、13:00に直接アパート来てください。」
トントン拍子で話が進み、なんだ、と拍子抜けした。
不動産屋で追い出されて、暴れるのを必死で我慢したのは何だったのか。
13:00、アパートの前には俺とグラサン白髪のじーさんという、どう見ても怪しすぎる二人組が立っていた。
じーさんのグラサンは漆黒で、奥の目は全く見えない。
「貸せるのは、ここの3号室。」
表通りからは離れた薄暗い裏路地に、掘っ建て小屋のような長屋形式のおんぼろアパートがあった。
屋根と外壁はトタンで扉はベニヤ。所々トタンがつぎはぎされていてみすぼらしい見た目だが、雨風は防げるだろう。
俺が借りる予定の303号室と思われる端の部屋の扉だけ、貫通痕を隠すためかブルーシートで覆われていた。
「はい、これ鍵。あと最初に電話で説明した、家賃、扉交換代、電気水道代支払ってね。そしたら今から扉交換して住めるようにするから。」
そんな簡単に扉交換できるのか?と思いつつ、なけなしの3000円を差し出し、鍵を受け取る。
3000円を確認すると、グラサンじーさんは横の倉庫を開けた。そこにはズラッと扉の部分だけが並んでいた。
そこから1枚の扉をとドリルを取り出し、慣れた手つきでブルーシートがかかった古い扉を外し、新しい扉を取り付けた。
古い扉のブルーシートを取れないようにキッチリ巻き付けてテープで留め、くるっと振り返ったじーさんは
「これで住める。あんたみたいな図体デカい奴用に出来てないから、優しく使うように。トイレはそこの仮設トイレ。水道は水しか出ない。電気はこの家のやつが同時にドライヤー使ったらブレーカー落ちる。お前は坊主だから良いか。」
ぶっきらぼうに説明を済ますと、耳元に近づいてきて小さいドスの効いた声で
「夜は大人しくしてろ。夜に覗き穴は使うな。」
意味深な言葉を残して去っていった。思わず新しく取り付けられた扉をみる。
その覗き穴は普通の扉のようにガラスの覗き穴ではなく、ドリルで小さな穴が貫通しているのみの簡素なものだった。
「あそこに拳銃でも突きつけられるんだろうか?」
独り言を言いながら、少ない荷物を部屋に運び込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!