貫通

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そこでの生活は意外にも快適なもんだった。 一人暮らしで、うるさく言う親も先生もいない。 所々風が吹けばガタついて、たまに隣の奴の泣き声?みたいなのが聞こえるがそれ以外は静かなもんだ。泣き声はすすり泣きのような感じで、たまたま会った時に包帯を目の辺りに巻いていたから、それが痛いんだろう。向こうからしたら、俺のいびきの方がよっぽどうるさいと思うが。 昼間はヤクザの事務所(立派)にいて、夜寝に帰るだけだからあまり気にならない。 事務所からもらったせんべい布団でも包まれば以外とあったかいし、トタンでも雨風は大体防げる。 月500円にしては上等な暮らしだった。 暮らし始めて数ヶ月経つと仕事にも慣れてきた。用心棒と言っても、怖そうな格好をして、事務所の前に仁王立ちしているのが主な仕事だ。 暴れたり、揉めたり逃げたりしたやつがいた時には捕まえて懲らしめるが、ドラマと違って滅多にそんなことは起こらない。 初めは疲れて帰ってきてからすぐに倒れ込むように寝ていたのだが、段々と夜まで起きていられるようになった。 ある日、目が冴えて深夜まで趣味のスマホゲームをしていると、玄関の前あたりから音がする。 夜中の2時、トタンのガタつき音の中に紛れて、ズリズリ…と何かを引きずるような音が玄関の前を移動している。 じーさんの言葉が耳をよぎる。扉から拳銃を撃たれても良いように、距離をとり、覗き穴の延長上から外れるように移動する。 しかし、銃弾の音は響くことはなく、音はいつの間にか無くなっていた。 しかもそれは一回だけでなく、毎日のようだった。起きていられる時に聞き耳をたてていると、その音には規則性があることに気がついた。 ズリズリズリ…と何かを引きずるような音、そして扉の前でガサっと何かが落ちるような音。 またズリ…ズリ…と音が遠ざかったと思ったら、また突然扉の前に音が戻って ガサガサッ と言う音をたててそこから音はしなくなり、一連の流れは終わりだ。 最初は新聞配達かとも思ったが、ここに住んでるやつに新聞をとるお金も頭もあるとは思えないし、朝方に扉を開けると特に扉の前には何の痕跡もない。 どうしても気になり、俺はその正体を突き止めることにした。
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