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いざとなればヤクザの後ろ盾もあるし、腕っ節には自信があった。
次の日休みの時を見計らって、実行することに決めた。
念の為事務所から借りてきた防弾チョッキを着込む。これで万が一撃たれても大丈夫だ。
作戦はこうだ。
まず音が通り過ぎるのを待ち、そこから扉をそっと開けて『やつ』の後ろ姿を確認する。
ヤバいやつだったら後ろから突撃してぶっ倒す。そうじゃなければそっと扉を閉じる。
いや、もしヤクザじゃなかったとしても、毎晩の音は迷惑だから注意したいところだ。
そして、決行日の夜。
寝ないようにエナジードリンクを飲んで家の中で待っていると……
来た!
ドアの外から微かに何かを引きずる音が聞こえる。
ズリ………ズリ………
湿っぽく何かが地面に擦れる音がドアに近づいてくる。
同時にオレもドアに近づいていく。ドア真横の壁にピッタリと背中を付けて息を殺す。
ぽっかり空いた覗き穴から、なんとも言えない匂いがする。鼻血が出た時に手で拭った時の匂いに似ている。
匂い、音、空気が変わり、今までは部屋の奥でやり過ごしていたから気づかなかったが、扉の近くに『何か』居るというリアルな実感が湧いてきた。
ズリ……ズリ……
音が扉の前に止まった。
ガサッと何かが落ちる音がした。
そして、また
ズリ……ズリ……
引きずる音は扉の前から遠ざかっていく。
俺は扉の前に行き、そーっとドアノブを回して薄く扉を開けた。
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