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俺は“怖い”という感情を知らない。
生まれつき身体がデカく、馬鹿力。
頭も馬鹿だったから、正に怖いもの知らずだった。
顔もよくお寺にある怖い胴像みたいに強面だったから、小学生5年生にしてあだ名が仁王だった。
仁王の名に恥じず、子分を従えて好き勝手に暴れる日々。
同い年との喧嘩は負けたことが無く、年上との喧嘩もタイマン張れていたのが自慢だった。
皆が恐れる生活指導の体育教師でさえ、俺には1目置いていた。
学校を卒業したあと、不良の仲間とつるんでブラブラしていたが、俺の強さとデカさと、この強面に目をつけたヤクザのヤツらに用心棒として雇われた。
だが、困った事になった。
家がない。
いや、正しくは自ら無くしたと言った方が良いか。
この仕事を始めたはいいが、家にヤクザが来るのは困る、と家族に泣きつかれて、とりあえず家出してきた。
組の事務所の近場で家を探して住めと言われたが、金も信用も何もない。しかも、未成年。1人で物件を借りるのは到底無理すぎた。
不良街道まっしぐら、ノンストップで爆走してきた俺様が、ここで足踏み食らうとは。
考え無しで行動した事を後悔しつつ、今日は公園で野宿をしようと屋根付きのベンチにゴロンと横になった。
すると、ベンチの屋根の天井に貼り紙がしてある。
暗闇の中でかすかに読み取れたのは、部屋の間取り図のようだった。貸せるところはありませんと放り出された不動産屋でよく見たようなチラシが、何故か公園の休憩所の天井に貼ってあった。
よくよく見ようと、スマホのライトをチラシにかざす。
「賃料月、500円…!?敷金礼金保証人必要なし。
マジかよ…。確かに1部屋で狭そうで、風呂トイレ無し。だけど…」
だけど、俺が今住める所はここしか無い。
月500円で雨風を凌げて寝る場所があるだけでありがたい。
予算はカツアゲした3000円しか無いのだ。
立地も悪くない。ヤクザの事務所から徒歩10分だ。
しかし、これだけ安いと絶対何かあるよな…。
ライトでチラシの隅まで照らし、なんとか下の細かい時まで見ようとする。
“扉に貫通跡がありますので、最初に扉の交換料を1000円頂きます”
貫通跡?ってなんだ?
待てよ…なるほど。前に住んでたやつもヤクザ関係と見た。
それで銃か何かで扉を撃たれて、それで貫通した跡があるんだな。
だが、扉は1000円で交換できるもんなのか?安すぎないか?と不安を抱きつつも、予算3000円になんとか収まりそうな事に安心した。
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