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俺は事件が起こるまでの経緯と、そのときの心情、主に爆発的な怒りについて語った。あの子を裏切り、身も心も傷つけたあいつがへらへらと笑っていることに我を忘れた。それでも何とか自分を抑え込んでいるときに、別の女子が似たような扱いを受けて自殺を図る事件が起きた。全身の毛が逆立った瞬間、俺はあいつのクラスに乗り込み、思い切り顔面に拳を撃ちつけていた。最初は一発で終わりにする予定だったが、あいつの顔を見ているうちに、こんな腐った奴は殺すべきだ、と考えが切り替わった。おそらく、相当な狂気が満ちていたのだろう、誰も俺を止めようとはしなかった。はあはあと息を切らし、殴り疲れたとき、拳にも制服にも夥しい血液が付着していた。そしてあいつは救急搬送され、俺はそのまま警察に向かった。殴っている間、俺はずっとあの子の名前を呼んでいたらしいから、噂はすぐに広まった。でも、あの子は強靭だった。学校内で好奇の視線に晒されながらも通学し、卒業した。大学も地元を選び、まるでそれら視線と戦うようにこの街に在り続けた。全ては俺の帰りを待つために。俺に贖罪するために。
煙草の灰が、雪の上に落ちた。
須藤汐美の手が、俺の手をぎゅうっと強く握った。
どうして泣くんですか、と彼女は言った。我知らず泣いていたことに気がつくと、俺は微かに顎を上げ、雪が目に入っただけだよ、と答えた。
想いを遂げられなかったことはこの際どうでも良かった。俺なんかのためにあの子を束縛しているようで苦しかった。慰謝料を払うために、俺は幸福な未来を売った。いずれ誰かと結婚できたとしても、随分長い期間、貧しい生活になる。それにあの子を巻き込むわけにはいかない。だから、もしも結婚するならば、愛情も持てないようなどうでもいい女を選ばざるを得ない。果たして俺は死ぬときに、いい人生だったと言えるだろうか。大切なあの子に暗い影を落としたまま、それでも間違っていなかったと言えるだろうか。
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