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さすが、頭がいいね、と俺は言った。
じゃあその頭を撫でてください、と彼女は少し頭を垂れた。
よしよし、いい子だ。きっと猫も喜んでくれるよ。猫に代わってお礼を言おう。
えへへ、すごく嬉しい。電子マネーが使える機械で良かったです。
俺たちは猫の警戒範囲を出て、しばらく成り行きを見守った。そして、思わず二人でガッツポーズを作った。猫は缶で作られたケージの中で丸くなって温まり始めた。ほら、もっと温かい自販機があるぞ。そっちへ行ったらどうだ。何だか偉業を成し遂げたみたいに顔がにやけた。彼女がぐいと袖を引く。後はあの子に任せましょう。大丈夫です。きっとたどり着いてくれますよ。最後まで見届けたかったが、俺たちはそろそろとブランコまで戻った。
あー、すごくいいことをした気分です、彼女は空に両手を広げて笑った。こんなに心が動いたことってなかったから、今はすごく爽快です。私の作戦ばっちりでしたよね。もっと褒めてくれてもいいんですよ。
俺は敬意を込めた拍手を送った。君はあの猫にとって命の恩人だよ。あの猫が繁殖を繰り返せば、何百何千という数の猫にとっての恩人になる。一匹の猫が一度に産む平均頭数は五匹だって言うから、そりゃものすごい数になるよ。
あなたがヒントをくれたんです。だから手柄は半分こしましょう。私の人生で、誰かと何かを半分こした記憶ってないんです。やっぱりあなたは運命の人ですね。
それだけ望むものを手に入れた人生だったのか、その逆で不遇だったのか。これも今訊ねることではない気がした。せっかくの良い気分に水を差すわけにはいかない。
須藤汐美は頬を紅潮させ、いつまでも幸せそうだった。それが、普段感じている寂しさの裏返しだと俺は思った。このままこの出会いを終わらせていいのだろうか。もっと何かしてやれることはあるんじゃないか。愚痴や悩みを聞いてやれる友達になるとか、離婚に向けた協力をする存在になるとか。
だが、俺が何を頑張ろうと、やはり金の力は絶大だ。強力な弁護士を雇うことも、有能なブレーンを置くこともできる。彼女が本当に求めているのは何なのか。貧乏な友達なんか欲しくはないだろう、などと考えたら、次の言葉が出てこなかった。
彼女は俺の気持ちを察したのか、潤んだ瞳を向けて言った。
あなたは私にとって、初めての喜びをくれた人です。誰かとこんな風に結びついたことはありませんでした。遠慮しないでくださいね。あなたが友達になってくれたら、いえ、それ以上の関係になってくれたら、私は本当に嬉しいんですからね。
俺はぐっと拳を握った。今の言葉には魔力が宿っていた。すでに失いかけている人生を取り戻せるかも知れない。贖罪の日々を終わらせられるかも知れない。どうせあの子とは結ばれないんだ。この女を手に入れれば、俺の未来には、少しだけ色がつく。
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