《ふたり》

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《ふたり》

 気疲れし、息が詰まる毎日。いっそ麻薬でも打って逃避したいが、そんな度胸も持っていない。せめてもの慰めとばかりに、彼女は俺に一言謝り、煙草に火をつけた。雪空の中に流れていく煙が、女の哀しい溜息のように思えた。  じゃあ、俺も一本もらおうかな、と言うと、彼女は何だか嬉しそうに笑った。涙の痕をつけながらも、ようやく小さな幸せを見つけたみたいに。  それからだいたい五分ほど、二人で黙って煙草を吸った。せっかく禁煙していたのに、また一からやり直しだ。でも、まあいいか。この一本が彼女を救えるなら、俺の安い我慢にも価値があったかも知れない。  同時に太い煙を吐き出し、同時に雪で火を消した。吸殻は彼女が持っていた携帯灰皿に落とした。そこで彼女はようやく缶紅茶のタブを引き、すっかり冷めた中身を味わった。  高い紅茶よりも、今あなたと飲むこの紅茶の方が美味しいです、と彼女は言った。きっと俺が思っているよりも()()いと思っているのだろう。また彼女の目に涙が浮かんだ。どんな言葉をかけたらいいか、どうやったらその心を潤してやれるのか、考えた。  俺は何も言わず、須藤汐美の手を握った。  彼女は一瞬驚いたが、抗いもせず、それを受け入れた。  雪の降る公園で、同じような白い(かすみ)を吐く。肺の中が冷気に満たされ、繋いだ手だけが温かい。寒さをごまかすためにブランコを揺らし、俺は分厚いグレーの雲を見上げた。今はこんな天気だけど、いつか必ず晴れるよ、なんて言葉が出かかった。でもそんな慰めなんか欲しくないだろうと思って飲み込んだ。その代り、少しだけ自分のことを話した。  学生だった頃、人を傷つけて少年院に入っていたこと。そこでの暮らしと、後悔の波。(すさ)んだ心の中に染み渡った人の優しさ。そして俺を待っていてくれた幼馴染の女の子。  どうしようもない人生だった、と諦めるのは早い。他人は簡単に人を量るが、そう思われても仕方がない部分もどこかにあると思うんだ。自助努力を重ねていくことは大変だ。人の心なんて小枝よりも折れやすいからさ。でも、そういう努力ってタダじゃないか。ほんのちょっとだけMっ気があれば、地道にこつこつ頑張ることだってできるんじゃないかな。君が悲観してしまうほど、人生は捨てたもんじゃないよ。
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