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終幕
一度だけ、彼に言ったことがあった。
『貰冊店の娘なんて、王子様の正妃に相応しくないですよ』
と。
そうしたら、またも斜め上から切り返されてしまった。
『そのことだけか? 俺の求婚を受けてもらえないのは』
と。
『それだけが理由なら、心配要らない。建前上は平民だって世子嬪にも立てる。どうしても正妃として認められなければ、名目上は側室になるけど、その代わり生涯、正妃は娶らない』――
これを、たとえば想い寄せるあの人が王子の地位にあったとして、その彼に言われた台詞なら、心底ときめいたのに。
そう思ってしまう辺り、やはりスリョンは彼を男としては見られないのだろう。見られれば、想い寄せてくれる彼の妻にいっそなれるのなら、どんなに楽になれるか知れない。
(……あたしだけじゃないわね)
クスリ、と小さく苦笑が漏れる。
すでに人妻になってしまったソニェを想い続けるヒョヌも、その彼の想いも知らずに彩雲君を想い続けるソニェも、そして、スリョンに求婚し続ける彩雲君も、ままならぬ気持ちを抱えたまま、きっと――。
【了】脱稿:2022.4.26.
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