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ツキのいえに帰るまで
ワタシの居場所はここではない。ここではないどこかだ。だがそれがどこかはワタシにもわからない。ワタシがこの星のものではないことは確かだ。
最初にこの星に来たのは数日前。他星へ資源や食料を調達に行っていた帰り、乗っていた船が故障し急遽近くにあったこの星に不時着した。
ワタシの住む星にはそれはなかったが、それ……木というものの存在は知っていた。それがたくさんあるとこに着地した。それを森と呼ぶことはあとで知る。
着地してからはまず自分が使っているネットワーク機器が使えるかチェックする。少し画面は荒れているが使えた。
ワタシは今いる場所を調べる。どうやらここは地球、というところだとわかった。まずは地球で使われている言語をインストール。
次に船を修理できそうな場所がないか調べる。宇宙センターというところが、他星のことに関する施設とわかりそこへ向かう。
ワタシが訪れると地球人たちは驚いた顔をしていた。どうやら見た目が地球に適していないみたいだ。
ーー何あれぬいぐるみ? ーーいやあのサイズは子供でも小さくないか? ーーロボット?
そんな声が次々あがった。
ワタシは小さい。五十センチほどの背丈に東部には二本の渦巻いた触覚、伸びる手足が二本ずつある。胴は長く足は短いのがチャームポイント。
センターの一番お偉いさんのところへ行こうとすると、青色の服と帽子をかぶった人間二人が目の前に立ちはだかった。
インストールした言語から適正のある言葉で会話をする。 ワタシ怪しいものではない、船を直してもらえないか聞きに来ただけだと言う。
しかし人間には通用せずとにかく署まで来いと言いワタシの両端につく。しかしワタシが動かないでいると二人の人間はワタシの両手をつかんだ。
腕はびよーんと伸び二人は焦ったがすぐに落ち着きを取り戻した。そして警察署というところへ連れていかれた。
***、百二歳。
ワタシが名前と年齢を答えると、人間は聞き取れなかったのか名前をもう一度いうように促した。名前は地球言語で一番近いものでラリューラと言った。
君は小人症の人でそれはかぶりものなのかと尋ねられた。否定の言動を取る。人間は失礼と言いながらワタシの体を触る。まだ被り物と疑っているらしい。
だが皮膚なので当然めくれることもなく、脱げることもなく人間は戸惑う。ここまでのいきさつを説明すると人間たちは困った顔をした。
そして船とやらを見せてくれと言ったきた。仕方ないのでワタシは船のとこまで人間を案内。大樹の葉の中に隠した船を取り見せる。
軽くて小さい船を人間たちはまじまじと見ていた。そんな人間の首をワタシは勢いよくはねた。二つの頭が宙を舞う。
この辺りにはもういられない、船を持って移動しよう。船を透明化させワタシはワタシ自身も透明化した。
誰にも見られない、誰にも気づかれない。こんなにたくさん人間はいるのに。なんだか虚しさを感じる。かといって注目されたいわけでもない。
頼りのネットワークも初日人間の首をはねた際こわれてしまった。もとより連絡する相手などいないが、調べものができないのが不便だ。
この星、地球のネットワークを調べた。小型端末を誰しもが持ち歩いている。同じものを探し透明化して持ち出した。
しかしネットワークにはつながらなかった。ワタシはそれを捨て待つことにした。
ワタシがいないことに誰かしら気づいてくれるだろう。何日も待った。何年も待った。
船の位置情報だけ飛ばしてあとは透明化しているので誰にも気づかれない。動物と呼ばれる生き物が時折感づいてくるが、透明なので被害はない。すり抜けるだけだ。
暗くなってくると見えてくるあれにはなつかしさを感じる。それは毎日少しずつ欠けては足され形を変える。人間はそれを月と呼ぶ。
ワタシはいえに帰るまであと何日ツキを見るのだろうか。
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