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 死んだなって不思議と、その瞬間に分かった。  どうやら僕は、交通事故で死んだみたいだ。  僕の体の一部である心臓は、その後誰かの体に移植されたらしい。  死んだのに何でそんな事が分かるのかって?  それは、僕が幽霊になってしまったからだ。  おかしいよね。  死んでもまだ、生きてるみたいに、色々考えらえるなんて。  死んだあとってこうなってるんだ。  勉強になるな。  って、もう頭がよくなっても意味がないのか。  お医者さんになるって夢、果たせなくなったな。  こうなったら、さっさと成仏するのがいいのかな。  案内人みたいな存在はいないんだ。  どうしようか。  でも、せっかくだから。もう少しだけここに、この現世にとどまっていたい。  空からは光があふれてきて、どんどん強くなってきている。  それは、きっと天からのお迎え。  あの光が強くなったら、僕は成仏してしまうらしい。  タイムリミットがあるみたいだ。  けど僕は、その光から逃れるようにとある人物の所へ向かう。  彼女の様子が気になるんだ。  僕には付き合っている人がいる。  いや、もう付き合っていた、になるのかな。  お医者さんになる夢を応援してくれて、自分も看護師になるという夢に一生懸命な、頑張り屋さんの彼女。  とにかく。  その彼女が心配なんだ。  傷ついていないかな。泣いていたりしないかな。  平気な顔されてたらちょっと僕の方が傷ついちゃうけれど、それでもあまり悲しまないでほしい。  すごく勝手だな。  見にいった彼女は、ないていた。  僕の魂がなくなった体を前にして、ずっと泣き続けていた。  瞼をはらして、そんな風にしないでほしい。  君は笑っていたほうがずっと魅力的なのだから。  君はいまにも死んでしまいそうで、僕の後をおいかけてしまいそう。  ずっと君と一緒にいたい、そう誓って告白したのは覚えてるよ。  だけど、それで一つしかない命を放り捨てるのはやめてほしい。  君はまだ、生きているんだから。  僕が生きられなかった分まで生き続けてほしいんだ。  生きて、大事な夢を叶えてほしい。  それで、たくさんの人を救ってほしいんだ。  僕にできることはなんだろう。  考えた末、彼に言葉を託すことにした。  僕の心臓を移植した人物。  彼の夢にお邪魔させてもらったよ。  そういう事、幽霊ってできるんだね。  少しびっくりしたよ。  まるで魔法みたい。  ちょっと憧れだったんだよね。  不思議な力を使うのって。  彼は、真面目な人間みたいだ。  救われた命を大切にして、一日一日を生きている。  あった事もない人物の事をお願いしたい、なんてすごく図々しけれど。  君にしか頼める人がいなかったんだ。  どうか、彼女が絶望で死んでしまわないようにしてほしい。  天から降り注ぐ光は強くなる一方で。  僕から時間を削り取っていく。  最後に見た彼女は、疲れ切って眠っている夢。  僕の写真の前で、僕があげたぬいぐるみを抱いて眠っている。  その肩に手を置きたい、その耳に声をかけたい。  でも、どうやってもできない。  もう時間だ。  未練ばかりで、悔いも残しっぱなし。  だけど、僕には自由にできる時間がない。  託すしか方法がない。  せめて、彼女の笑った顔をもう一度だけ見たかったな。  そうか、彼女が絶望で死んでしまわないようにしてほしい。  叶うなら、彼女に笑顔を取り戻してあげてほしい。  お願いが増えちゃったね。  ごめん。  一つの交通事故が大切な人を奪った。  この世界ではありふれた事。  彼の死も、ありふれた事の一つだったのだろう。  けれど、私にとってはそうじゃない。  もうこの世界から、いなくなりたい。  彼が死んだ。  そんな世界で生きているのが辛い。  二人で励まし合って生きてきたのに。  もう彼の声を聞けない、温もりを感じる事ができない。  大切な人だったのに。  代わりなんてないのに。  胸が張り裂けそうだった。  もし、死神が近くにいるなら。  一緒に、この体を彼のいる場所に連れて行ってくれたらいいのに。  だから、いつも死を考えていた。  けれど、ぼんやりとした意識の中で、どこか高い所に上っていく私に声をかけた人がいた。  生きて欲しいと願った人がいた。  知らない人なのに、どうしてかその言葉は不思議と胸に響いた。  初めて会った気がしない。  ぎこちなく笑いかけて、励ましてくれる人。  不器用だけど、でもとっても優しい人だった。  真面目な人でもあるのかな。  私の事を、誰かに頼まれたらしい。  それで、面倒を見てくれるようになった。  どうしてだろう。  顔も声も、ふれあった手の温度も全然違うのに。  どこか彼と重なってしまう。  分からない。  どうしてそんな事を思ってしまうのだろう。  私の日常はたんたんと過ぎていって。  かつてあった、悲しみが薄れてしまっていく。  それがとてつもなく怖い事のように思えて、発作的にこの世界から消えたくなることがある。  でも、それでもあの人が駆け付けてきてくれた。  私はほっとしてしまう。  これはいけない事。  私は大切な彼を、新しい人物で上書きしようとしている。  それはとても悲しい事。  忘れたくないと、願っていた過去の私の想いを蔑ろにしてしまう。  だから、もう会わないでほしいと、そう言ったのに。  どんなにつっぱねても、彼は私の前に現れる。  頼まれたからじゃない、今は「君の事が好きだから」だって。  そんな事を言って。 「君がいないと生きていけない」なんて、ずるい事を言わないで。 「自分を死なせないために生きてほしい」なんて、卑怯な事言わないで、  私は、私だって貴方の事を少しだけ好きになりかけてるのに。  そんな想いに身をゆだねたくないから、必死に答えているのに。    そんな言い方、ひどい。  私の心はぐちゃぐちゃになった。  けれど、その日の夜。  夢の中に久々に彼に出会った。  ずっと見ていた、死んだあとの彼の姿じゃない。  生気に溢れた彼の姿がそこにあった。  忘れて、なんて言って。  幸せになって、って続けてきた。  夢を叶えて、多くの人を助けてってそう言って。  最後に生きてって言ってた。  私は生きなくちゃいけないのかな。  一つしかない命を大切にしなくちゃいけないのかな。  彼の分まで、苦しくても生き続けなくちゃならないのかな。  答えは出ないよ。  でも、逃げる事は、してはならないと思った。  見つからないなら、見つけるまで生きていなくてはならない。  私は、看護師になるという夢を持った人間だから。  彼が失った命のの重さを知っている。  彼が助けてくれた命の尊さを知っている。  だから、歩き続けようと思った。  私が私の命をどう使っていくのか、きちんと決められるその日まで。
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