光の世界が作られた理由

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光の世界が作られた理由

 医師団に所属する我等は、様々な場所に赴いては、患者の手当てを行っていた。  彼等の治療のかいあり、回復する患者はいるが……。  その何倍もの数の人間が、あの世へと旅立っていった。  死んだ後でも生きられると言うのなら生きたい。死んだ後でも誰かとまた会えるというのなら会いたい、そうした願いが叶えば救われる人は大勢いるだろう。  この世界で、全ての望みが叶う可能性は高くない。  生きているうちに、どれだけの人間が満足の行く生を送れるのだろう。  きっと、百パーセント幸福だったと言えるような、そんな人間はいないのではないだろうか。  みんな、何かの未練をのこして死んでいくのだ。  そんな人達の心を、救う事ができるかもしれないのが死後の世界。  曖昧で、観測は不可能。  実在を証明する事などできやしない。  けれどだからこそ……その存在が、死にゆく人達の希望になるのではないかと思った。  それは、ただの慰めにすぎないのだろう。  気休めにしかならないのだろう。  実のあるものではないかもしれない。  それは幻想にすぎなくて、形あるものを残す事ができない。  それでも、死にゆく人達の心を救いたかったから……。  だから、我々はその話を広めた。  死期が近い人間に、治療が及ばない人間に、全ての人間が救われる死後の「光の世界」の事を。  そこでは誰も苦しまなくていいのだ。  治療法のない病に悩む事も、重い怪我に煩わされる事もない。  始めは、私達だけの話だった。  しかし、いつしかその話は、世界中に広まっていった。  みなが、望んでいたからだろう。  やがて世界中の人々が、光の世界の存在を信じるようになった。 「先生、今までありがとうございました」 「安らかな眠りを」 「後は我々がこの医師団を引き継ぎます」  きっと、そのせいなのかもしれない。  誰もが抱いた祈りが、願いが、本当にその世界を作り出してしまったのかもしれない。  生の終わりを告げられた私は、次に目を覚ました時、そこにいた。  とてもあたたかな光の世界が、目の前にあった。  そこには何の苦痛もなく、悲しみもない。  今まで担当してきた患者たちが、何に悩まされる事なく幸せそうに微笑んでいる。  光は優しくこの体を包んで、私の魂を導いてくれたのだった。
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