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密会は、3日も続けて開かれていた。
雑居ビルの隙間にはカラスと美しい天使が、トールランプを囲み、座っていた。あたりは、しんと静まりかえり、繁華街からやってくるトラックの響きだけがぼんやりとまだ熱を持ち、残っている。
そこでは、少し不思議でとりとめもない雑談が繰り広げられていた。
「夜が続けばいいのに」と、僕が言う。独り言のつもりだった。
「そうだね。特に、今日はキレイな満月だって」
天使はキョロキョロと、空の方を見上げた。天使は、今日も落ち着きがなく、忙しない。純白の羽が壁に当たり、コツンと小刻みに音を立てた。それは、壊れた時計の秒針みたいに夜を打ち破り、僕にざわめきと安らぎを与えていた。
「見て、あそこだ。東の方。ルーダ、はやくはやく。雲がかかちゃうよ」
その甲高い声に、僕はくるりと首を動かした。腕を上げた拍子に、天使の手が今度は煤けたパイプにぶつかる。この密会の地は、天使にはいささか狭すぎるようだった。
「こんなに、キレイなまんまるを見たことないや」
「一度も?」
天使が興奮を宙ぶらりんにしたまま、勢いよく頷いた。
「新月の時に来たから」
そうかと、僕は思った。天使がきてから、まだ一月も経っていないのだ。
「月のどこがキレイなの?」
天使の熱のこもり方に押されて、そんなくだらない質問をした。まともに月をみたのはいつぶりだろうか?
「ルーダに会う前、俺は色んなものを見て来たんだ。観覧車やおおっきいビルやタワークレーンや、どこまでも続く海」と、天使は遠い目をしていう。「全部、キラキラ光り輝いて、手には届かないほどクールだった。けどね……、お月様はなんか違うの」
うっとりと、天使は唇のあたりを舌で軽く舐める。
幕張あたりでも、飛んできたのか。海と埋立地、黒い影ばかりで、僕はあそこが苦手だ。
悦楽に浸る若者の顔で、天使は月を見つめ続けた。いつもはそばを離れないのに、今夜は僕にそっぽをむいて黙っている。今日の天使は、ちょっとおかしい。
「そういえば、お前っていくつなんだ」
今さっき、思いついたようなセリフが沈黙を破る。それは、脳内の脚本通りのセリフだった。が、ト書きには気だるげな調子でと、記したはずなのに、気張り過ぎたせいで、予想よりも声が大きい。
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