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「なんて?」と、天使がやっとこちらを向くと、その白光を帯びた瞳が、月の代わりに僕を捕らえる。それは真実を見つめる、よどみのないまっすぐな色。まるで、くだらない小細工や思惑を見透かされているようで、声に出さなくとも、強い酒を煽ったように顔がガッと熱くなるのがわかった。
「としは、いくつって、いった。」と、しどろもどろに僕はさっきの言葉を繰り返した。
「あぁ、そんなこと。深刻そうな顔してたから、びっくりしちゃった」
ナーバスになった僕をよそに、天使はあっけらかんとして、しまいには可笑しそうに笑った。
「年は多分、ろくせんとごひゃくさいくらい。でも、それも確かじゃない。途中で、数えるのが億劫になったんだ」
なにもかも考えすぎだったらしいと、僕はそこで一息をついた。
「ケーキに立てるろうそくも、その年じゃ焚き火になるな」
「誕生日に、大火災は流石にごめんだ。でも、あっちの世界じゃまだまだ新入りの部類だった」
「そりゃあ、そうだろう」と、調子よく僕はいった。「こんなドジが大天使なら、1日で世界が壊れそうだ」
「ルーダに言われると、ちょっと傷つく……」
天使が急に顔を伏せる。彼の感情の起伏さに、僕は慌てると、「ごめん、うそだから」天使はいたずら好きの子供みたいに舌を出すと、僕をケラケラと嘲った。
「僕だって、わかってたさ」とつぶやいたけれど、今更そんなことをいったって、負け惜しみにしか聞こえなかった。
「でも、その年だと、僕の200倍くらい生きてるってことだ」
「そうだよ。だから、師匠と呼んでくれ」「
師匠」
「めずらしく素直で、いいじゃないか。ほら、今日は無礼講だ。なんでも聞いていいぞ」と、天使は腕を組んでいる。
「じゃあ一つ、質問だ。これ以上、無意味なストレスを抱えないで生きるには、どうしたらいい?」
すると、そうじゃないという風に、天使は人差し指を横に振り、舌先で音を立てた。以心伝心というべきか、夜中、天使といるせいで、求められていることが手にとるようにわかってしまう。僕はわざとおおげさなため息をついて、「師匠、お願いします」と頼んだ。
ついでに軽く頭まで下げてやると、今度は満足げに、彼はこくりとうなずいた。無礼講の意味をわかってないなと、僕は少し思ったけれど、余計なことをいうのが面倒で、なりゆきをそのまま見守っていた。
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