オヒサマとオツキサマ

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「この黒い羽に決まってる」 「きれいだよ」 天使はこの話題が出るたびに、悲しむのを僕はわかっていた。でも、天使にどう褒められようが、この呪縛から僕は一生、逃れられない。 「悲観することなんてないよ。ありのままの君が好きなんだ」 「嬉しいこと言ってくれるね。でも、それじゃダメなんだ」 僕はこれまでのことをその時、ふと思い出した。鳩として生を受けた頃、兄弟は皆グレーの羽を持ち、僕だけが黒の羽に覆われていた。見た目以外に、際立った異常は他になかった。が、生まれ持ってのそれは僕の人生をエラーにさせるのには、十分な決定打となりえた。願いに反し、徐々に濃くなって、しまいにはhighlightの類の一切が消えた羽。 この容姿を愛そうとも試みたけれど、環境が俺にそれを許さなかった。周囲からは奇異の目で見られ、親にさえ疎まれ、いつも腹をすかせていた。 もしも、紛れることができるなら、いっそ、カラスになってしまおうかなんて、馬鹿げたことを思ったりもした。けれど、あのカラスのように賢くもないし、カァカァと声を出せば、息切れて咳き込んでしまう。所詮、能力は鳩の域をでないのだ。そういうわけで、この黒い羽は、俺の人生の禍の元だった。 中途半端なはぐれ者には、いつでも、街の中に決まった居場所はなかった。今はひょんなことから出会った天使とつるんで、こんなビルとビルの間の偏狭で寝食を共にしている。 ため息交じりに、僕は言った。 「黒い羽がなかったら、もっとマシな人生を歩んでたさ。それこそ、2、3の親友がいて、ちっちゃな家庭を築いて、暖かい寝床で眠って、おいしいスープを飲んで……。今望んだもの全て、僕と同じくらいの奴らが、当たり前に持っているものだろ。魔法のランプじゃ、もうどうにもできない。少なくともさ、こんな細い隙間に身を潜めて、夜に生きる必要はなかった」 僕は下を向きながら、あのはちみつ酒をもう一度、口に流し込んだ。特有の渋みと緩い炭酸が舌に残る。その気だるい味は、僕の暴自棄にすこし拍車をかけた。 「普通になって、誰かにちゃんと愛されたい。それだけだった。でも、ある日、なぜかわからないけれど、僕の何かが爆発したんだ。とにかく吐き気がして、僕は故郷の小さな街を逃げ出した。行き先はどこでもよかった。が、いつのまにか導かれるように、君と共にここへ流れ着いて、いたんだ」
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