ショートショート【再会】

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僕はいつもより一本早い電車に乗っていた。 すると、ある駅で見覚えのある人が乗ってきた。扉の前に立っていた僕は、電車の座席に腰を下ろしてスマホを見ているその姿に目を移し、まさか、と思った。 小学校の同級生で、幼なじみだったミサトだ。 同じピアノ教室に通っていたのに、僕よりずっとピアノが上手くて、いつも明るいミサトを───僕は好きだった。 それなのに、ミサトはずっと僕のことを弟のようにしか見てくれていなかったと思う。教室で会話するはあっても、逆に僕はイジられていたくらいだ。 「ちょっとは上手くなった?」 「ちょっとはってなんだよ」 「まあ私に追いつけるわけないだろうけど」 「追いつこうとか思ってねえよ」 そんな会話が今でも鮮明によみがえった。僕は電車の中のミサトに目をやる。こっちには気づいていないようだ。スマホに落とされたその目を見て思う───可愛い、と。 僕は声をかけようか迷った。声をかけて、向こうが僕のことを覚えていなくて傷つくのも嫌だし、もう二度と会えないかもしれないのに声をかけず後悔するのも嫌だ。 僕はしばらく離れて様子を見ていた。
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