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元の席に戻ると、ミサトは呆然と机の一点を見つめていた。
僕が戻ってきたことに気づき、慌てたように視線を上げる。その目は今度は涙で濡れていた。
泣かせてしまった、と思うけど僕はその表情の変化が愛おしくて仕方がなかった。
しばらく沈黙が訪れる。僕はただ視線を泳がせる。
ふと、ミサトが口を開いた。
「ねえ、ハルトは……確かに私の、心の支えになってくれた」
震える声に僕はハッとした。『確かに』という言葉が妙に引っかかった。
「でもそれと同時にハルトはずっと、私の心の負担だった。ハルトが……あのあと自殺なんかしなければ!」
そうだ、僕はあの事故で右腕を失ったショックで自殺したんだ。ミサトを助けられたという誇りと共に、それ以上にこれから先ミサトとピアノを続けられなくなることが、僕の何よりの苦痛だったんだ。
「あんたが自殺しなければ……っ!私が……こんなに自分を責めないで済んだのに!」
机に添えられた手が震えている。思わず声を荒らげる姿に、周りの客や店員の驚いたような視線が「彼女だけに」注がれる。周りの目にはミサトは、突然一人で泣き叫んでいる奇人のようにしか映っていないのだ。
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