プロローグ

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私はその言葉を聞いて、ほっと胸を撫でおろした。 そして、同時に新たな疑問が浮かんでくる。 「そういえば、夏希くん。お母さんは? 先月からお父さんカナダ支社に転勤になっちゃって、お母さん、引っ越しの準備でバタバタしてるんだ」 先にカナダへ飛んだお父さんの後を追いかけて、来週にはお母さんも向かう事になっている。 私はといえば日本語しか話せないし、お母さんみたいに海外生活に憧れもない。結果、こっちに残りたいという希望を聞いてもらえて親戚の恵美おばさんの家に居候する予定だ。 このマンションも来週には引き払う予定になっている。 「聞いてるよ。念願の父さんの海外勤務で母さん張り切ってんだって?」 「そうなの。だから冷蔵庫も食材を使い切る為に今、からっぽの状態で……。それに今日は大切なお客さんが、多分恵美おばさんの事だと思うけど、挨拶に来るからパティスリー・シロでチーズケーキ買ってきてねって頼まれたんだけど。もしかして、お買い物に行っちゃった?」 今朝、学校に行く前に帰り道にケーキを買ったらまっすぐ家に帰ってくるように釘をさされていたというのに、当のお母さんがいない。 訝しむ私に夏希くんがケロリとした顔で言う。 「母さんなら出てったけど」
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