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とういうか、どういう意図があってお母さんが夜逃げ、じゃなかった昼逃げしたのかが分からない。
「私もカナダに行くしかないの?」
「なんでそうなるんだよ。それじゃ俺が来た意味ないだろ」
「え?」
「え? じゃなくて」
そうだった。夏希くんさっき、自分は「大切なお客さん」って言ってたっけ。
「夏希くん、チーズケーキ食べたかったら食べていいよ。私、ちょっと恵美おばさんに連絡をー……」
鞄から取り出したスマートフォンを夏希くんがひょいっと取り上げる。
「ちょっと夏希くん! ふざけてる場合じゃないんだってば。私の平和な学園生活がかかってるんだから!」
「連絡は必要ない」
170センチ以上ある夏希くんが上に手をあげれば、155センチの私には届かない。
ぴょんぴょん飛び跳ねてスマホを取り返そうとする私を呆れた顔で見遣って、夏希くんは嘆息した。
「みのり、お前さぁ。さっき聞いたよな、俺に」
「な、何を?」
「どうして俺がここにいるのかって」
リーチの差が憎い。懸命に手を伸ばす私を軽くあしらって、夏希くんは続ける。
「返して!」
「返さない。そんな事したら俺が迎えに来た意味がなくなるじゃん」
私はジャンプをやめた。
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