ライラック

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ライラック

しとしとと降る雨の中 私は黒猫のワンポイントの入った 白い傘をさして呆然と立っていた。 それはさっきまで入っていた カフェの中での出来事。 長年つきあっていた彼が アメリカン珈琲ではなく ブレンド珈琲をオーダーしたから。 私はハーブティーをオーダーする。 いつもの通り。 ただそれだけの違いなのに 私の心は揺らいだ。 そしてその揺らぎーううん不安は的中する。 彼は猫舌なはずなのに、 ブレンド珈琲を一気に飲んだ。 そして スキナヒトガデキタ ・・・・・・・ しとしとと雨が降っている。 カフェを出た後の彼は すまんと頭を下げた後 くるりと向きを変えて行ってしまった。 私は彼とは反対方向の道を歩き出した。 彼といつも歩いていた道。 ウィンドウショッピングを楽しんでいた道。 そして将来を語り合った道。 ふと、お店のウィンドウを見ると 私はいつのまにかぽろぽろ涙を流していた。 ぽろぽろぽろぽろと。 私は傘を少し前方に傾けた。 泣き顔を見られたくなかったから。 雨が降っていて良かった。 みんな傘をさして私の涙は傘に隠れるから。 それでも私は 傘のワンポイントの黒猫が 目の前にくるようにした。 だって涙をもっと隠したかったから。
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