6.優しくて愚かな嘘を乗り越えた先

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 美千花(みちか)が失神した時、伊藤医師が言ったように、律顕(りつあき)がすぐさま手を差し伸べられたのは。 「律顕。……私と赤ちゃんを守ってくれて有難う」  美千花の言葉に、律顕が泣きそうな顔をして「きみが倒れた時、僕は本当に怖かった」とつぶやいて、美千花の枕元にポスッと(ひたい)を押し付ける。  まるで情けない顔を見られたくないみたいに顔を伏せたまま動かない律顕の柔らかな髪をそっと撫でながら、 「――心配掛けてごめんね」  柔らかな声音で美千花が言ったら「……うん」と小さな声が返った。 「美千花、迷惑かも知れないけど僕、向こう五日間ほど有給を取ったから」  ややしてポツンとつぶやかれた声に、美千花はさっき稀更(きさら)が言っていたやつかな?と思って。 「しばらくの間、きみはベッドから動けないって先生から聞いたんだ。――だから、何かして欲しいことや欲しいもの、食べたい物があったら遠慮なく何でも僕に言って? 美千花のためなら何だって出来るから」  ふわふわと手にまとわり付く律顕の髪に触れながら、美千花はこの人とならお腹の子供をきっと大切に大切に育てていける。  そう思って。  いつの間にか、あんなに痛かったはずのお腹の痛みもスッカリ消えていて、美千花は律顕の言葉が何よりの薬だったんだと身をもって実感する。  美千花のことばかり考えて、馬鹿みたいに優しくて愚かな嘘をつく律顕のことを、美千花は心の底から愛しいと思った――。    END(2022/05/03〜05/24)
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