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家事が出来ずに寝込んでいる美千花を決して責めたりはしない律顕だったけれど、正直家のなかに食べ物を持ち込まれるのが美千花には辛かった。
でも、美千花が溜め込んだ家事を頼まなくても率先してこなしてくれる律顕を見ていると、そんなギスギスしたことは到底言えない美千花だ。
「美千花も少し食べてみない?」
差し出される食べ物に、思わず眉間をしかめるたび、律顕は「ごめん。次こそは美千花が食べられそうなものを探してくるね」と辛そうな顔で笑うのだ。
察するに、律顕は自分が食べたいものを買ってきているのではなく、美千花が食べられそうなものを模索しているらしい。
***
あれは丁度今から三日前。
律顕の甲斐甲斐しさに耐え切れなくなった美千花は、とうとう言ってしまったのだ。
「ね、律顕。私のことは気にしないで、律顕の好きなものを食べて来てくれていいんだよ?」
と。
――出来れば外で食べて帰って来て欲しい。
そんな思いが我知らず言の葉に乗ってしまったことに気付けないまま夫を見つめたら、「美千花は僕が家にいるの、嫌?」と眉根を寄せられた。
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